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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)5812号 判決

原告

グリーンラインズ・シッピング・カンパニー・リミテッド

右日本における代表者

朴昌緒

右訴訟代理人

吉本英雄

瀧本良太郎

大崎康博

被告

カリフォルニア・ファースト・バンク

右代表者

ドナルド・アール・アイヤー

右訴訟代理人

本林徹

内田晴康

古曳正夫

久保利英明

相原亮介

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一五億円及びこれに対する昭和五五年四月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  被告の本案前の答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告は、肩書所在地に登記簿上の本店を有し、日本における営業所所在地に登記した日本における営業所で実質上の主たる事務所を有するパナマ国法人であり、船舶による海上運送業務を営む会社である。

被告は、肩書所在地に本店を有し銀行業務を営むアメリカ合衆国カリフォルニア州の法人で、送達場所に東京駐在員事務所を有するものである。

2  本件訴訟に至る経緯

(一) 原告は、昭和五三年九月中から、原告名義で被告銀行に、米貨三二〇万ドル以上の預金口座を有していたが、右預金中より米貨三一九万五三九〇ドルを日本における原告の指定した銀行口座に送金するよう被告に対し数回にわたり強く要求したが、被告は、何等の特別な理由なく、その要求に応じなかつた。

(二) そこで、原告は、訴外エウル・ヨング・キムを被告日本センター事務所に派遣し、担当者に対し送金の有無を確認させたところ、昭和五三年一〇月一〇日に被告銀行の原告名義口座から、日本において原告が指定した口座宛に米貨三一九万五三九〇万ドルが送金された(以下本件送金という。)。

(三) ところで、訴外パメラ・H・キム(妻)と訴外エウル・ヨング・キム(夫)とは元夫婦であつたが、韓国裁判所における離婚判決が確定したため、その婚姻関係は解消された。

そして、パメラ・H・キムは、エウル・ヨング・キムに対し婚姻関係解消に伴う慰藉料請求訴訟をアメリカ合衆国カリフォルニア州サンマテオ裁判所に提起したが、これに伴ない原告が原告名義で被告銀行に預金中の預金を目して同預金はパメラ・H・キムとエウル・ヨング・キムとの共同個人資産であると主張し、パメラ・H・キムの弁護士を通じて、被告に対し、七二時間以内の原告名義預金口座の変更禁止を求める通知をし、これは昭和五三年一〇月一〇日には既に被告に送達されていた。

カリフォルニア州の法律によると、弁護士からの前記通知を受けた者は、これに反して財産を移動させた場合は、弁護士の依頼者に対し損害賠償の責を負わなければならないこととなつている。

(四) そこで、パメラ・H・キムは、本件送金は右法律違反である旨を主張し、サンフランシスコの裁判所で被告に対し損害賠償請求訴訟を提起した。被告は、パメラ・H・キムに対し米貨一二五万ドルを支払うことで示談し、右事件を解決させた。

(五) 昭和五三年一〇月一二日、被告は、エウル・ヨング・キムを本店法務部室に呼出し、本件送金から生ずるかもしれない被告の蒙るべき損害を補償する旨の損害補償状につき署名するよう要求した。

エウル・ヨング・キムは、英語の読み書きができず、通訳も帯同しなかつたため要旨説明を受けたのみで、被告側の七名から脅迫的態度で署名を要求され、畏怖の念にかられて、右補償状に署名した。しかし、エウル・ヨング・キムは個人として署名したのみで、原告の代表者又は代理人としての署名については、未だ権限を与えられていないとの理由で拒否した。

3  本件不法行為

(一) 被告は、前記パメラ・H・キムに対する示談金の支払いは、前記補償状に記載されている日本向送金業務から発生した損害であると主張し、原告に対する損害賠償請求債権を担保するため、原告所有の別紙一記載の船舶機船サンウエイ号(以下本件船舶という。)が、たまたま貨物積込のため、カリフォルニア州サクラメント港に入港碇泊していたところ、昭和五五年四月一三日同船舶に対してサンフランシスコ裁判所から差押命令を受けて、これを執行した(以下本件差押という。)。

右差押命令執行は、次のように違法なものであつた。

(1) 被告が差押命令取得のため証拠として裁判所に提出した損害補償状は、エウル・ヨング・キムが脅迫により個人として単独署名した公証済みの補償状ではなく、文書と署名を偽造したものであつた。

(2) 対物訴訟としての船舶仮差押は、連邦地方裁判所のみが裁判管轄権を有し、州裁判所であるサンフランシスコ裁判所には、管轄権は存しない。従つて、裁判所の取消命令を待つまでもなく本件差押命令は法律上当然無効であり、これに基づく執行も当然違法となる。

(3) 出港準備が完了した後における差押禁止船舶に対する違法差押である。

(4) 被告に対し債務を負担しない第三者たる原告の財産に対する仮差押である。

(二) そのため、昭和五五年四月一三日から、同命令が取消され、命令に基づく差押が解除された同年七月二日までの七九日間にわたり、本件船舶はサクラメント港内に碇泊を余儀なくされた。

(三) 原告は、被告の本件差押により、次のような損害を蒙つた。

(1) 米貨一六万六〇一一ドル

昭和五五年四月一三日から同年七月二日まで本件船舶の岸壁使用料及びその他の費用合計額

(2) 米貨七三五一ドル二一セント

船舶差押監視のため聯邦保安官に支払つた費用

(3) 米貨二〇六万四九八一ドル二一セント

一か年の傭船契約を解除されたため残余期間の得べかりし傭船料から期間中の経費を控除した正味損害金

(4) 米貨二万四六四七ドル

本件差押解除の保証金捻出のためやむをえず本件船舶を売却したため、原告雇傭の船員をサクラメント港から韓国向送還するに要した費用

(5) 米貨三〇〇万ドル

本件船舶の当時の価値は米貨六〇〇万ドルと評価されていたところ、急いで売却せざるをえなくなつたため、三〇〇万ドルで売却することとなつたので、市場価値との差額の損害

(6) 米貨一〇万ドル

船舶差押事件でカリフォルニア州裁判所における手続の為に原告が支払つた弁護士費用の額

(7) 米貨八七五万九四四四ドル八〇セント

売船しなければ今後四年間に得たであろう傭船料純収入の合計額

4  結論

よつて、原告は、被告に対し、米貨一四一二万二四三五ドル二二セント(邦貨換算金三〇億一二三一万円)の損害賠償請求権を有するものであるが、本訴において、右のうち金一五億円及びこれに対する不法行為の日である昭和五五年四月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める。

二  管轄についての原告の主張

本件訴訟について、以下の各事由によつて日本の裁判所が管轄権を有する。

1  原告は、日本において登記した営業所を有し、それは原告の主たる事務所である。また、被告は肩書送達場所に日本における駐在員事務所を有するので、民訴法四条三項により管轄権が認められる。

2  本件は不法行為に基づく損害賠償請求訴訟であるところ、民法四八四条により賠償義務の履行地は債権者の所在地である原告の主たる事務所のある日本であり義務履行地の裁判籍を定める民訴法五条により日本の管轄権を認められる。

3  本件差押の不法行為により、原告は、傭船契約を解除せられ、東京で受領する予定の傭船料を取得しえなくなり、右相当額の損害を東京で蒙つた。また、本件差押解除の保証金捻出のためやむをえず、不当に安い売買価格で本件船舶を売却したが、右契約は東京で締結、履行されたのであり、右契約による損害が東京で発生した。

従つて、民訴法一五条一項により、損害発生地たる東京に管轄権を認めることができる。

三  被告の本案前の主張

1  国際民事訴訟における裁判管轄権の決定については、わが国の民事訴訟法の管轄規定は日本の裁判所が管轄権を有する場合において内国の土地管轄を定めたものにすぎないので、これを参酌することは妨げないが、被告の立場を十分配慮したうえで裁判を適正、公平且つ能率的に行うに適した裁判所はどこかという条理を基準として決定されなければならない。

本件訴について、日本の裁判所は、以下のように管轄権を有しないから、本件訴は不適法である。

(一) 原告の日本における営業所の登記は、本訴提起約二か月前の昭和五六年三月一八日になされている。そして、被告の日本における駐在員事務所は、情報の蒐集、調査活動、連絡事務のみをなし、銀行本来の業務である預金の受入、金銭の貸付等の取引を営む事務所でもない。又、その規模は、駐在員事務所長、顧問および秘書各一名の三名で構成されている。

ところで、民訴法四条三項の「事務所、営業所」とは主たるものをさすし、又、日本における業務に関するものに限り管轄権を認めるべきところ、本件では、前記のように、被告の東京駐在員事務所は主たる営業所でもないし、又、本件不法行為は、右東京駐在員事務所の事業活動に関連するものでもない。

よつて、被告の日本における駐在員事務所の存在をもつて、管轄権取得の基礎とすることはできない。

(二) 国際民事訴訟において、裁判管轄の有無は当事者間の公平等国際的配慮に基づき合理的に決すべきであるが、義務履行地に裁判管轄権を認めるとすると、契約関係訴訟であつても、準拠法となるいずれかの国の契約法上当該債務が持参債務か取立債務かによつて裁判管轄の有無が左右されてしまい合理性を欠く。まして、不法行為訴訟の場合、義務履行地に管轄を認めるとすると、被告に予測不可能な地での応訴を強制することとなり、当事者間の公平に反する結果となる。つまり、本件のような不法行為訴訟で民法四八四条の持参債務を機械的に適用して、義務履行地に裁判管轄権を認めることは、原告の住所、営業所に管轄を認めるのと同様となり不合理と言わざるをえない。

さらに、原告は、本件不法行為の時点と主張する昭和五三年一〇月から同五五年四月まで日本において営業所の登記もしていなかつた。

従つて、民訴法五条を根拠とする管轄は理由がない。

(三) 原告主張の不法行為による結果の発生とは、本件差押により本件船舶がサクラメント港に長期間拘束され運航できなかつたこと自体をさすのであり、原告主張の傭船契約の解除、傭船料受領予定地等は結果発生地ではなく、まして船舶売買契約地は、これに該らない。これらは、被告の予測しえない地で偶然に原告らによつて選択された地にすぎない。

不法行為地に国際的管轄が認められるのは、証拠蒐集の便宜、被害者の起訴の便宜、加害者の賠償についての予測との一致の観点から合理性ある場合でなければならない。

ところで、原告は、別紙二のようにアメリカ合衆国において訴訟を遂行しており、その中には、本件と実質的に同一の訴訟であるカリフォルニア州サンフランシスコ裁判所第三事件も含まれている。従つて、原告の起訴の便宜を考慮する必要はない。又、証拠もそのほとんどがカリフォルニアにあり、日本に管轄権を認めることは、訴訟経済、迅速な審理の要請に反することとなる。

よつて、これらの事情を加えて考慮すれば、本件において、不法行為地として管轄権を日本に認めることはできない。

2  原告は、カリフォルニアに係属中の被告に対する訴訟を遂行し、勝訴すれば、カリフォルニア州内にある被告の資産に対し執行できる。

しかるに日本には被告は何ら資産を有していないから、日本において二重に訴訟を提起しても、それは訴の利益の欠けるものとなる。

3  実質的に同一の訴訟が、外国裁判所に係属中の場合にも、国内における二重起訴と同様に、被告の応訴による迷惑、審判重複による訴訟不経済、判決の牴触のおそれ等が認められるので、当該外国の判決が日本において承認され執行が確保される見込がある場合には、日本における重複起訴を制限しうると解すべきである。

しかるに、カリフォルニア州裁判所の判決については相互保証ありとしてその執行が確保されるのであり、実質的二重起訴である本件訴は、民訴法二三一条又は同条の類推適用により、却下されるべきものである。

4  本件不法行為請求は、結局外国裁判所の発した仮差押決定の違法性を主張するものであるが、いまだ右決定が理由なしとして取消されておらず、その本案訴訟が係属中であり、違法な仮差押申請であつた旨を窺わせる公的判断が出されていないような状況下では、かかる決定の適法性、違法性を日本の裁判所が判断することは、国際民事訴訟法上礼譲として差控えるべきである。

5  日本は、本件訴訟の審理にとり、きわめて不便宜な法廷地であるから、管轄権を行使しないことが妥当である。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一本件はパナマ国法人で日本における登記した営業所を有する原告が、その所有する本件船舶に対し、アメリカ合衆国カリフォルニア州の法人である被告から、同船が同州サクラメント港入港碇泊中に、仮差押命令の執行を受けたことが、不法行為を構成するとしてその損害賠償を求める訴訟であることは、訴旨自体から明らかである。そこで、まず、当裁判所が、本件に対する管轄権を有するか否かについて検討する。

二本件のように、外国法人間の民事紛争の解決について、いずれの国が裁判管轄権を有するかは、これを規定する条約もなく、一般に承認された明確な国際法上の原則もいまだ確立されていないし、わが国にもこの点についての成文法規はない。

そこで、本件訴について、わが国の裁判所に管轄権があるか否かは、当事者間の公平、裁判の適正、迅速を期することを基本的理念として条理に従い、いかなる国に裁判管轄権を認めるのが適当かの観点から決しなければならない。

この場合、わが国民事訴訟法の土地管轄の規定は、もとより国際裁判管轄についての定めではないが、国内における管轄権の場所的分配の定めとして合理性があると考えられるので、さらに国際的観点から配慮し右のような条理に反する結果を来たすと認められない限り、これにより裁判籍が国内に認められる場合には、わが国に裁判管轄権を認めるのが相当である。

三そこで、前記立場から本件についての裁判管轄権につき検討を進める。

1  原告が肩書地に登記した日本における営業所を設けていることは、当事者間に争いはないが、このことのみで、被告をわが国の裁判権に服させる事情とすることはできない。

2  〈証拠〉によれば、被告は肩書地に本店を置き、払込資本金米貨二七三六万ドル、商業銀行業及び信託業務を主たる業務とする会社であり、アメリカ国内に店舗一〇三店、海外支店としてグァム支店、ナッソウ支店、サイパン支店を有するところ、昭和五四年四月一七日東京に駐在員事務所を設置し、事務所代表、顧問、秘書各一名を置き、銀行業務は行なわず、日本及び太平洋地域各国の経済に関する情報の蒐集、日本及び太平洋地域各国所在の取引先及び取引工作先に関する情報の蒐集、その他被告の業務活動に資する調査、連絡事務を行わせていることが認められる。

右認定によれば、前記被告の東京駐在員事務所は民訴法四条三項の「営業所」に該当するとはいえないが、「事務所」に該当するように窺える。

しかるに、本件は被告がカリフォルニアにおいて行つた船舶仮差押執行に関するものであり東京駐在員事務所の業務と関連のないものであることは明らかであるうえ、〈証拠〉によれば、原告の取締役であるエウル・ヨング・キム、その元妻パメラ・H・キム、原告、被告が当事者となり、本件と同一の事柄を請求の基礎とし、本件請求と一部重複するか、又は関連する訴訟が別紙二記載のとおり提起され、その一部は現に係争中であることが認められ、右事実によれば、原告が昭和五六年三月一八日に日本における営業所を設置する以前である昭和五五年から右カリフォルニア州サンフランシスコ裁判所及び連邦地方裁判所カリフォルニア東部地区において被告と争訟中であり、本件に関する証拠の大部分は右事件と共通するものと解される。

以上によれば、被告のみならず、原告にあつても証拠蒐集、訴訟活動についてカリフォルニア州の裁判所が便宜であることは明らかであるうえ、わが国においても管轄を認めるときには、判決が矛盾、牴触するおそれもあり、また被告に二重に訴訟追行の負担を強いることになるから、当事者の公平、裁判の適正、迅速を期することを基本理念とする条理に従えば、わが国に被告の「事務所」が存在することをもつて裁判管轄権を認めることができない。

3  不法行為請求権の義務履行地はわが国民法四八四条によれば、債権者の所在地とされるため、民訴法五条の義務履行地が日本にあるとして本件の管轄を認めうるかのように窺える。

しかしながら、不法行為事件では、わが民訴法上も不法行為地に独立の裁判籍が認められており、不法行為地以外の義務履行地に裁判籍を認め被告の応訴を強制することは、国際訴訟では被告の予測が不可能であつて、当事者間の公平に反するおそれが大きいので、これを否定すべきものと解する。

さらに、本件では、2において認定・説示した原、被告間の本件不法行為に関連するカリフォルニア州の裁判所における訴訟の状況に併わせ、原告は、これらの訴訟係属後である昭和五六年三月一八日に日本における営業所を設置したとしても、かねて昭和四七年二月七日設立以来パナマ市に本店を置き営業をしてきた外国法人であることからも、日本に不法行為の義務履行地の裁判籍を認めないとしても不便は少ないといわざるを得ない。

従つて、本件において、義務履行地を根拠として管轄権をわが国に認めることはできない。

4  民訴法一五条は、不法行為地の管轄を規定するが、本件で仮差押執行の行なわれたカリフォルニアが不法行為地として管轄権を有することは明らかである。そこで、一般に前記「不法行為地」には、加害行為地のみならず、その結果の損害発生地も含めて考えることができると解されている。

ところで、原告主張の本件不法行為による結果は、差押の執行により本件船舶が拘束され運航できなかつたことであることは、本訴自体から明らかである。原告主張の傭船契約解除による傭船料喪失は、就航不能状態から直接生じた結果ではなく、傭船主が契約解除を選択したことにより、原告が得られるはずの請求権を喪失したという二次的、派生的に生じた結果である。更に、仮差押執行解除の保証金三〇〇万ドル調達のため、やむをえず本件船舶を売却したとの点は、原告が偶然に、東京での売却という方法を選択したことによる結果であつて、本件不法行為による直接の結果ということはできない。

そもそも不法行為地に国際的管轄権を認めようとするのは、証拠蒐集の便宜、被害者の起訴の便宜、加害者の賠償についての予測との一致、行為地の公序に違反するものである等の観点から合理性が認められるからであるところ、本件の傭船料受領予定地や、船舶売却地は、被告から合理的に予測することができる地とは言えないし、本件不法行為自体の証拠蒐集の便宜から管轄権を認める合理性に乏しいし、前記2、3で認定・説示した本件原告、被告間の訴訴状況、原告の地位等からして右各地点に管轄権を認め被害者の保護をはかる必要性も乏しい。

従つて、前記各地点をもつて、不法行為の結果発生地に該るとして民訴法一五条により、わが国に裁判管轄権を認めることはできない。

5  他にわが国に管轄権ありと認めさせるに足る事由は窺えない。

四以上の次第であるから、結局本訴は訴訟要件を欠くことに帰するので却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(荒井眞治 田中澄夫 矢部眞理子)

別紙一

船舶の表示

一 船名 サンウェイ(SUNWAY)

二 船質 鋼船

三 総屯数 一九、五八七、九九トン

四 純屯数 一四、一〇二、二トン

五 夏期載貨重量屯 約二三、八二六トン

六 建造年月日 一九六七年一〇月日本において建造

七 船籍 パナマ

八 船舶所有者 パナマ共和国パナマ市五番 グリーンラインズ・シッピング・カンパニー・リミテッド

別紙二

一 カリフォルニア州サンフランシスコ裁判所(第七五八九一六号事件)

(第一事件)

原告 パメラ・エイチ・キム

被告 カリフォルニア・ファーストバンク

訴訟提起日 一九七九年一〇月九日

概要 本件被告カリフォルニア・バンクが、パメラ・エイチ・キムから宣誓供述書(グリーンラインズ・シッピングその他名義の如何を問わず夫エウル・ヨング・キムの権利に属する預金については夫婦共有財産である)の通知を受けたと同日に、エウル・ヨング・キムの要求により本件原告グリーンラインズ・シッピング名義の預金口座から、3,195,379.95ドルを送金した行為がカリフォルニア財務法第九五二条に違反するとして、同額の損害賠償を求めている。

その後の推移 一九八〇年五月五日和解(被告カリフォルニア・バンクがパメラ・エイチ・キムに対して一定の条件のもとに総計一、二五〇、〇〇〇ドル支払うことを骨子とする)で終了。

(第二事件)

原告 カリフォルニア・ファースト・バンク

被告 エウル・ヨング・キム、グリーンラインズ・シッピング・カンパニー・リミテッド

訴訟提起日 一九八〇年二月八日

概要 本件被告カリフォルニア・バンクが前記送金をしたことに基づき蒙ることあるべき損害につき、一九七八年一〇月一二日付損害補償状その他により、エウル・ヨング・キムおよびグリーンラインズ・シッピングが同バンクに対して補償すべき義務があるとしてその支払を請求している。

(本件船舶仮差押の本案に当るものである)

(第三事件)

原告 エウル・ヨング・キム、グリーンラインズ・シッピング・カンパニーリミテッド

被告 カリフォルニア・ファースト・バンク

訴訟提起日 一九八〇年九月二六日

概要 いくつかの請求原因を主張しているが、そのうち、一九七八年一〇月一二日付の損害補償状の署名、作成過程が不当であると主張し、この補償状が本件船舶の仮差押に使用されて仮差押が出され、執行されたために蒙つた各種費用と本件船舶の傭船によつて得べかりし利益を損害賠償として求めている。

二 連邦地方裁判所カリフォルニア東部地区

(第一事件) 第八〇―四〇三号

原告 パメラ・エイチ・キム

被告 本件船舶(対物訴訟)

訴訟提起日 一九八〇年五月一九日

概要 カリフォルニア州サンマテオ裁判所の判決で本件船舶についての所有権を認められたことに基づき本件船舶の所有権確認と本件船舶から生ずる一切の利益および売船した場合の売却代金の請求を求める。

(第二事件) 第八〇―四一〇号事件

原告 グリーンラインズ・シッピング・カンパニー・リミテッド

被告 本件船舶(対物訴訟)、カリフォルニア・ファースト・バンク、パメラ・エイチ・キム他

訴訟提起日 一九八〇年五月一九日

概要 いくつかの請求原因を主張しているが、本件船舶の所有権確認を求める他、本件船舶に対する本件被告カリフォルニア・バンクの仮差押、パメラ・エイチ・キムの仮処分が不当であるとして各種費用の他本件船舶の傭船により得べかりし利益を損害賠償として求めている。

三 カリフォルニア州サンマテオ裁判所

原告 パメラ・エイチ・キム

被告 エウル・ヨング・キム

参加人 カリフォルニア・ファースト・バンク

訴訟提起日 一九七八年一〇月一〇日

概要 離婚ならびに財産分与請求

その後の推移 一九八〇年四月二三日に中間判決で離婚を認めると共に、本件船舶を含む他の財産が夫婦共有財産であることを確認し、本件船舶を含む一定の財産をパメラ・エイチ・キムに財産分与している。

更に、一九八一年八月一〇日に右中間判決を修補正する決定を出し、本件原告グリーンラインズ・シッピングはその実体がなく、同社とエウル・ヨング・キムとは法的に全く同一人格であると判示し、従つて、グリーンラインズ・シッピングも右中間判決に拘束される旨言渡している。

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